バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

2014年 アメリカ
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:マイケル・キートンエマ・ストーン

※ネタバレ有り


リーガンは、ヒーローものの「バードマン」シリーズで
一世を風靡したものの、その後ぱっとせず、
かつてのバードマン俳優として、うらぶれた人生を送っている。

その状況を脱すべく、ブロードウェイでの劇作家&演出家として
再起を図ろうとするのだが、しかし、主演俳優には、ばかにされ、
評論家には、けちょんけちょんにけなされ、さんざんだ。

映画は、リーガンがベッドの上に浮遊し、瞑想するシーンからスタートする。
そして、その後も、物を手を使わずに動かしたり、破壊したり
超能力があるように描かれていく。
それが、本当なのかそれとも単なる妄想なのかは
映画の中では明らかにされないので、最初は、え、どっち、ととまどうのだが
話が進む内に、どうも単なる妄想、あるいはリーガンの心象風景を映像化しただけ
ということがなんとなく分かってくる。
しかし、そこが、曖昧であることが、映画を微妙に落ち着きの無いものにしている。というか、妙に青臭いものに。
いい歳をして、かつての栄光が忘れられず、
プライドを捨てることも出来ず、今の境遇に満足することも打破することもできずに、中途半端に生きているリーガンの、心の叫びがその超能力というかたちで噴出している。

「俺はこんなもんじゃ、ないんだ!」という想い。
それは、「俺はまだ本気を出してないだけ、本気を出せば、なんだって出来る」という中二病の若いやつと全く変わりがない。

そういう、いごごちの悪さを抱えながら、話は進むのだが
あまり状況は好転しない、というか、最悪の結末にむかって進んでいく。

リーガンは、舞台の上で、自殺シーンにかこつけ、本当に自殺を図る。
そして、そのことを「無知がもたらす予期せぬ奇跡」と評論家に言わせしめるるのだがそんな格好いい物ではない、ただの自殺未遂だ。

ラスト、リーガンが休むホテルの1室、
ベッドの上にリーガンの姿がない。心配した娘は、開いていた窓をおそるおそるのぞく。しかし、下には、なにもないようだ。そして、上を見あげ、何かを見つけたように微笑むのだ。

その微笑みに救いがあるか、というとそういうわけではない。どういおうと、自殺未遂の男がこんどは本当に飛び降り自殺をした、ということでしかないし、その自殺の理由も、ひとりよがりのものにしか思えない。

ドラムオンリーのBGMとか、長回しで全てがつながった凝りまくった演出とか
みどころは、満載なんですけどね。

ジョゼと虎と魚たち

日本 2003年

監督:犬童一心

出演:妻夫木聡池脇千鶴

※ネタバレあり

 

生まれつき足が不自由で歩くことのできない女の子と
大学生とのラブストーリー、ではあるのだが
よくある難病物のかわいそうな女の子の話ではない。

女の子は、歩くことができず、貧乏長屋に祖母と二人暮らしだ。
だから、でかけることもあまりなく、拾った本とテレビでしか、世の中のことを知らない。で、たまたま読んだサガンの小説の主人公が気に入り自分のことをジョゼと呼んでいる。
ちょっと、変わっているのだ。
顔は人並み以上にかわいく、自分でもそのことは知っている。
しかし、境遇が境遇なだけに、だからどうなるものでもない、ということも知っている。そして、夢を持つことを注意深くさけながら暮らしていたのだ。

しかし、そこに現れる、ちょっとちゃらんぽらんな大学生、恒夫。
恒夫は、このちょっと変わったジョゼが気になり、恋に落ちる。

そして、祖母がなくなったことをきっかけに、二人は一緒に暮らし始める。
ジョゼの目を通して見る世界は全てが新鮮だ。
タイトルにもなっている、動物園に虎を見に行くシーン。
ジョゼは、虎が死ぬほど怖いという。そして好きな男ができたら見に来ようと思っていたと。なぜなら、虎がいくら怖くても、そばに好きな男の人がいれば耐えられるから。

このままごとのような世界は、しかし、常に終わりを意識した世界でもある。
ジョゼにとっても、恒夫にとっても。
いつまで続くかは、分からない、というか、いつかは終わるだろうことを
あえて考えないようにした、こわれもののような世界だ。

しばらく後、既に就職もしている恒夫は、そろそろどうにかしないとと考え始める。そして、ジョゼを実家つれていくつもりで出かけるのだが結局ふんぎりをつけることができずに、ジョゼは、それを当たり前のこととして受け入れる。
それは、最初で最後のふたりだけの旅行になり、
終わりの予兆を感じながら、無邪気にはしゃぐ二人の姿は美しくも痛々しい。

そして、二人の恋は終わり、恒夫はジョゼの家をでていく。
しばらくして、ジョゼが原付タイプのクルマ椅子にのり買い物に出かけていくシーンになる。格好も、前より大人っぽくきちんとしている。そして家にもどり、一人前のご飯を作る。と、ジョゼが独り立ちをし始めたところで映画は終わる。

ああ、だから、これは、特殊な状況にある男女のラブストーリーではなく
恋という魔法が解けて、大人への階段をのぼった、ひとりの女の子の話だったんだと、気づく。

キャストは、池脇千鶴妻夫木聡
なんとっても、池脇千鶴がいい。彼女のための映画といってもいいくらい。

ロング・グッドバイ

1974年 アメリカ

 監督:ロバート・アルトマン

 出演:エリオット・グールド

 

かなり昔、一度見ているはずだし、原作もかなり昔に読んでいるはずなのだが、
話しはほとんどおぼえてなく、今回ほぼ初見状態。
今回、印象に残ったのは、冒頭の猫と、マーロウのペントハウスの隣に暮らしている女たち、そしてマーロウをおどすヤクザ。

猫は、かなりの尺を使っているが、猫好きにはあるある、というかよくある話。
アメショーとかじゃなくて普通の茶虎ってところがいいのかもしれないが
猫好き以外には、どうでもいいエピソードなんだろうな。
「ケンガイ」というマンガに、ロンググッドバイに出てくる猫は今どうしているんだろう、みたいなどうでもいいくだりがあるのだが、ああ、これがその猫かと。監督は猫好きなんだろうな、きっと。

女たちは、当時のヒッピームーブメントの影響を受けているのか
トップレスでヨガ?かな、で集団生活というその不思議な生態が、とっても妙。
ジャックニコルソン主演の「さらば冬のかもめ」に出てくる妙な日本の宗教とかもそうだけど、全くストーリー上の必然とかはなく、ちょっと変わった匂いを持ち込むだけだったものが、今見るとすごく変というのは、それはそれで、映画としての味なのか?どうなんだろう。

で、マロウをおどすヤクザですが、全く意味不明かつ唐突に自分の彼女の顔を破壊して病院送りにしたり、マロウをおどすために、手下も自分も裸になったりと、もうめちゃくちゃ。「パルプフィクション」とかはまだ、理屈の通じるヤクザたちだったけど、こういう意味不明で不条理な怖さと、それがかもしだす何ともいえないコミカルさとの、どっちに転ぶかわからない不安定さが絶妙。
この辺ののりは、デビッド・リンチの「ブルーベルベット」に出てくるデニス・ホッパーとか北野映画に通じるものがあるかも。

話は、実に王道のミステリー。自殺したはずの親友が実は生きていて、真犯人だったという。ラスト、その友人を、マーロウが躊躇なく撃ち殺すのが、ちょっとビックリ。確かに、法律上は既に死んだ、いないはずの人間ではあるけれど。
そんなに、あっけなく撃つのかいって、思わず突っ込みそうになる。
いやでも、アルトマンだし、名作だし、これくらい、あっさりしていた方が、
余韻がのこり、映画世界が楽しめるかもしれないな、と。
全てが分かりやすくて、きれいに収まっているだけがいい訳じゃあ、ないし。

ブラジルから来た少年

1978年 アメリカ/イギリス
 
 
出演:グレゴリー・ペック、ローレンス・オリビエ
 
 
なんといっても、プロットが素晴らしい。
時代は1970年代、ナチハンターが南米でネオナチ組織の陰謀をかぎつける。
しかし、そこで語られたミッションは世界各国にいる65歳の94人の公務員を事故に見せかけ暗殺するというもの。
仲間にも語られぬ、その理由は?というところから話は動き出す。
その情報をつかんだ、ナチスの残党を執念深く追う老ユダヤ人リーバーマンの動きを通して、我々もその謎を追うことになるわけだが、なかなか、それは明らかにならない。
なぜ、65歳なのか、なぜ公務員なのか。
しかし着々とミッションは遂行され、事件を追いかけるリーバーマンは、
そこに同じ顔をした少年が存在することを知る。そして、あきらかになる驚愕の事実。
もう、ほれぼれとするような謎解きです。
こけ脅かしと、観客をミスリードするためだけの伏線にあふれた最近の映画を見慣れた身としては、巨匠がつくった完璧なプロットの前に、もう脱帽です。
 
ネオナチの陰謀の首謀者メンゲレをグレゴリー・ペック
そして年老いた反ナチ活動家リーバーマンをローレンス・オリビエという二人の名優が演じている。グレゴリーペックの悪役は、似合わないという意見もあるようだが
ダリのような尊大な雰囲気は悪くないと思う。
あと、少年役のなんともいえない不気味で不快な感じが素晴らしいです。
映画が成功した理由は、素晴らしい脚本もさることながら、この少年役のキャスティングもかなり大きいのではと思わせる。
それと、忘れちゃいけないのが、ロケーションのすばらしさ。
アマゾンにあるメンゲレの隠れ家、殺人現場となるスウェーデンの絶景のダムなど、どこで見つけたんだというような風景ばかり。
もう、才能もお金も手間も存分につぎこんだ贅沢な映画です。
監督はシャフナーという人。残念ながら、ノーマークの監督でした。
過去作は、「パットン大戦車団」「猿の惑星」「パピヨン」など。
観てないけど「パットン大戦車団」はアカデミー作品賞をとっているし、
昔観た「猿の惑星」も「パピヨン」もそれなりの名作だった気がするので
監督作は多くはないが、大作を撮る巨匠の一人なんでしょうね。
 
タイトルの「ブラジルから来た少年」は、原題だと「The Boys from Brazil」と少年が複数形になる。しかし、邦題だと単数形なので、そこでも意図せぬひねりがきいた感じになってますね。
 
 

My iron lung

こんどのカバーは、またレディオヘッドの「My iron lung」。

ほんとに、レディオヘッドは捨て曲のないバンドで、

2枚目以降1曲もないといっても過言ではない。

この曲は2枚目の名盤「Bends」のもので、

ビートルズっぽいアルペジオの出だしとサビのフリーキーな

フレーズとの対比が楽しい。

 

 


Radiohead "My Iron Lung"cover feat. Miku Hatsune

ラン・ローラ・ラン

1998年 ドイツ

監督:トム・ティクヴァ

出演:フランカ・ポテンテ


走れメロス」のようなタイトルであるが、話も似たようなもの。
恋人から、10万マルクを紛失してしまい、あと20分でお金を用意できないと殺される、
と電話を受けたローラが、お金を工面しようとベルリンを走り回る、という映画。
銀行家の父親を頼るものの、逆ギレされ、時間に間に合わず、ふたりでスーパーに強盗にはいったあげく、警官に撃ち殺されてしまう。というところまでが、はじまって30分。これからどうなる?と思いきや、なんとビックリのループものでした。
また最初から繰り返し、微妙に変化する3度の繰り返しの末に、果たしてローラは間に合うのか、というドキドキの展開。
微妙な違いが、だんだんと大きな違いになって、結末が変化するのがなかなか楽しめる。
でも、これってループものではあるけれど、RPGゲーム感覚といった方が近いかも。まさかのバッドエンドから、ふりだしにもどってやり直し。異なる選択肢を選んで、正解を探し出すっていう。
全体に四つ打ちのダンスビートが流れ、アニメが混ざったりするポップな絵作りもゲーム的か。制作年は98年だけど、今観ても古くさくはない。

I talk to the wind

高校生の頃、よく聞いていたキングクリムズンの"I talk to the wind"。

今聞くとAメロとBメロの繰り返しで単調な曲ではあるけれど

当時、フルートのソロが入る辺りが、とても知性的な感じがしてました。

 

 

 


King crimson "I talk to the wind"cover feat Miku Hatsune