クミコ、ザ・トレジャーハンター

アメリカ映画 2015年

監督:デヴィッド・ゼレナー

出演:菊地凛子勝部演之ほか

 

クミコは宝を見つけることができたのか?

※ネタバレ有り

鬱屈した生活を送っている29歳OL(お茶くみ)のクミコがふとしたきっかけで観た「ファーゴ」の「この映画は実話である」というテロップにより、映画の中の大金が雪の原野に隠されるシーンを事実と思い込み、その大金を探しにアメリカのファーゴに行くというお話し。

前半は、その鬱屈しただめ女ぶりが描かれる。コミュ障でモラルの破綻した女。周りのOLからはディスられ、上司からは早く結婚退職しろと疎まれる。そんな上司のお茶に唾をたらすという幼稚な仕返しをし、昔の友達に会っては、その幸せぶりに耐えられず、勝手に帰ってしまう。当然彼氏などいるわけもなく、親ともけんかばかりだ。

その彼女が、会社のクレジットカードを使い込み、アメリカ、ミネソタ州にあるファーゴへ宝探しにいくところから、映画は違う様相を見せ始める。使い込みがばれてカードを止められ、モーテルを抜け出し、そのまま持ってきた毛布をかぶりながら歩き出すクミコ。青白い冬景色の中、赤いフードをかぶり、鮮やかな毛布を引きずるクミコはまるで殉教者だ。
そのクミコの前に親切な保安官が現れ、クミコの目的を聞いた彼は何とかクミコを思いとどまらせようとする。「映画はフェイクなんだ、事実じゃないんだ」と。でも、耳をかさないクミコは保安官の元を逃げ出し、タクシーを乗り逃げし、ファーゴにたどりつく。
しかし、冬のファーゴは、ただの極寒の原野だ。あてどなく、吹雪の中をさまようクミコ。ラスト、目当ての雪原にたどりつき、大金を見つける。そして「やっぱり、私まちがってなかった」とつぶやき、大金を抱えて歩いて行くところで映画は終わる。そばに、日本で捨てたはずのペットのウサギが、というところで、ああ、これは、死ぬ間際の夢なんだと分かるようになっている。

映画を事実と思ってしまう設定はファンタジーだ。現代に生きる日本人でそれを信じる人間がいたとしたら、それは頭のおかしい人だ。だけど、それがありえない、絶対に存在しないがゆえに、そしてそのことを観る側が知っているがゆえにクミコの宝探しは、ただの逃避ではない別の意味を持ち始める。それは、まるで不可能なことを信じる信仰のようであり、そのバカバカししい純粋さが心を打つ。死ぬ間際の夢の中で、夢を叶えるというラストもそのひとつの定型を踏襲してるように思う。

クミコを熱演したのは菊地凛子。彼女は終始、ぶすくれた、うらめしそうな表情をしている。それは、何かに反抗したいのだが、自分の思いをちゃんと言葉にできない子供のようだ。そんな表情が、クミコの純真で無垢な存在を際立たせ、設定の奇天烈さとともに
物語に普遍性を持たせていると思う。

ところで、この話は元になった実話がある。ファーゴで死んだ日本の女性が、映画「ファーゴ」のファンだったこともありファーゴの宝物を探しにきたと誤認され、その報道は現地ではかなり話題になったらしい。もっとも、あとで、それは誤解で、恋愛のもつれから自殺しただけと判明した。ちなみに、映画「ファーゴ」の「この話は実話である」というテロップは、あくまで映画の演出であり完全なフィクションだ。