私の男
日本 2014年
監督:熊切和嘉
※ネタバレあり
監督は「海炭市叙景」の熊切和嘉。
映画としては、オーソドックスな作り。
時系列にそって、きちんと物語を展開させようとする意思が感じられる。
その分、もたつくこともないわけではないが、
そのまじめさは、好感がもてる。
見終わった直後は、そこまでいい映画とは思わなかったが
後から、二階堂ふみの印象がじわっと来る。
花をひきとった淳吾(浅野忠信)とのどろどろのラブストーリー。
大人になりきれない淳吾は、幼い花と関係をむすび、
やがて、相互依存の関係になっていく。
花をひきとる時に、淳吾がいわれた言葉。
「おまえに、家族を作れんだろう。女と暮らすのとはわけが違うんだ」。
しかし結局、淳吾はその言葉のとおり、家族という関係を構築することはできず
ただ、男女の関係を作ってしまうだけだった。そして、それに依存する花。
中学生くらいの花と指をなめ合う淳吾。隠微なふたりだけの世界。
この辺の描写は、丁寧で濃密だ。
めがねをかけ、まだ幼い風情の花が、学校からの帰り道で会った淳吾にキスをせがむ。
その少し前には、まだ遊び盛りの同級生と一緒にいたはずなのに。
そして、「お父さん、しよ」といってはじまる濃厚な性描写。
北海道の美しい雪景色の中で描かれる、その世界は美しい。
大人になりきれない淳吾と花が作り上げたその閉鎖的な世界は
ふたりだけで完結していれば、それはそれで幸せだったはず。
しかし、その世界は、花が大きくなり外の世界と関わりを持つようになるとだんだんと変質してくる。
二人は世話になった人に、関係を知られてしまう。
そして、花を遠くの親戚に預けようとするその人を
花は、流氷の海に突き飛ばし殺してしまう。
二人は逃げるように東京へ出て暮らしはじめる。やがて年月がたち、花は会社勤めをするようになる。そこに現れる、花に好意を抱く男たち。
その男をおどしては、「おまえには無理だ」と言い放つ淳吾。
しかし、二人の関係は、前のようにはいかない。昔は、わかったお互いのことが分からないと、つぶやく花。
ラスト、結婚式を明日に控えた、花と婚約者の待つレストランにネクタイをつけ現れる淳吾。淳吾の様子は、おかしい。落ち着きがなく、挙動不審だ。あらぬ方を見ては、男に「おまえには無理だ」とつぶやく。
そして、テーブルの下では、花の足が淳吾の足を捉えている。
東京にでてからの、描き方は、ぶっきらぼうだ。
ほとんど説明らしきものがない上に、展開が唐突で
ただ、ラストシーンまでのつなぎを作っただけのよう。
淳吾は、最後に「おまえには無理だ」とつぶやく。
しかし、これは、誰にむかって放たれたことばなのであろうか。
相手の男にむけてのものなのか、それとも自分や花に向けてのものか。
この関係を終わらせることは不可能だと。
救いはない。でも、そもそも救いなど必要としているのか。
幸せとか幸せでないとか、の向こうにあるもの。
その淫靡と恍惚は、悪くはないという気がする。
浅野忠信もよかったが、
こういうエロい役を自然体で演じられる二階堂ふみは、やっぱりすごい。
彼女が演ずると、かなりどろどろで悲壮な場面も、昼メロ的な情緒過多に陥ることがない。貴重な才能かと思う。いろいろ出過ぎだけど。
あと、音楽はジム・オルークが担当している。
へえなるほど、という感じ。