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ピアニスト

2001年 フランス
 
 
出演:イザベル・ユベール、ブノワ・マジメル
 
※ネタバレあり
 
 
支配的で過干渉な母親のもとに育ち、
性的に成熟することができなかったエリカ。
30を過ぎても結婚もせず、母親と二人暮らしだ。
ピアニストとしては一流で、音大で教鞭をとっているものの
その裏では、ビデオ個室で性欲を満たすような生活。
 
母親は、いまだに彼女がどこで寄り道したのかということも厳しく問いつめ、
彼女がちょっと派手な服を着ることも非難する。
反抗はするものの、最後には母親に許しを請うエリカ。
 
母親から、自立できていないエリカであるが、
しかし、一歩外に出ると威厳のかたまりのようだ。
どんなときも笑顔をみせることなく、実に辛辣に生徒の欠点をあげつらっていく。
それは、どれも的確だが、暖かみは一切ない。
母親の支配から抜け出せずに、自立できないエリカは、
その反動のように、他者に対しては支配的に権威という鎧を身にまとうのだ。
 
そこに現れるのがイケメン大学生ワルター
彼はエリカに一目惚れし、自分の専門の工学を捨て、エリカのピアノの授業を受けることにする。ピアノもうまい、エリカもうならせる腕前だ。
その上、スポーツも得意で友人も多い。エリカとは正反対の人間だ。
最初は、彼の臆面もない求愛をいつもの権威の鎧であしらうエリカだったが、実は興味しんしんだ。そしてある出来事をきっかけに、二人はお互いの欲望を満たすことになる。 
 
たががはずれたエリカは、さらに己の欲望をさらけ出す。
愛情などというありきたりなものでは満足できないもっと倒錯した被虐的な欲望だ。
しかし、いかんせん、ワルターはいかにピアノがうまくても、ただの常識的なお坊ちゃまでしかなく、エリカの欲望をののしり、主従の立場は逆転する。
そして複雑で、倒錯したエリカは、常識的なワルターに無様に奴隷のように扱われるのだ。それは、それは彼女の望んだものではなかった。
ワルターは母親のかわりにはなってくれず、ただ、暴力的にふるまうだけ。
彼女は、ぼろぼろになりながら、再び心をとざし
母親の支配を受け入れ権威という鎧を身にまとうのだ。
 
支配的な母親と精神的に不安定な美しい娘、
娘には被虐願望が有りそこに現れる男性、ということになれば王道の官能ストーリーだ。
男性と娘のどろどろの関係が気分を盛り上げるはずなのだが、この映画は、そうはならない。むしろ、そういう官能性をできるだけ排除しようとする。
官能性のない、無味乾燥とした即物的でむきだしの行為は、ただひたすらに醜悪だ。
 
そして、エリカは、ラストでナイフを持ち演奏会へと向かう。
ワルターとの関係を清算するために。しかし、家族と現れたワルターは、何事もなかったように明るく声をかけ、そのままいってしまう。ひとり残されたエリカは自分の肩を刺し、血を流しながら街の中へ出て行く。
 
この場面にも、ドラマチックさやロマンはない。
ブラックスワンなどとは違う。決して美化することはない。
 
なかなか、ひとすじなわではいかないミヒャエル・ハネケの監督作品である。
カンヌでグランプリをとったということであるが、そこまでの映画だろうか。
主役二人の演技はすばらしかったが。