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エレファント・ソング

2014年 カナダ
監督:シャルル・ビナメ
出演:グザヴィエ・ドラン
 
※ネタバレ有り
 
 
いまをときめく、グザヴィエ・ドランの監督作ならぬ出演作。
なんでも、脚本を読んで、この主人公は自分のことだと、出演を熱望したらしい。
 
それだけに、彼の演技というか存在感はとても光っている。
彼が演じるマイケルの、いたずらっこのような無邪気さと才気、
それでいて全てに絶望しているような虚無感、なにかを訴えようとする必死さ。
そんな彼のくるくる変わる表情を見ているだけで、だんだんと引き込まれていく。
 
話は精神病院を舞台にした心理サスペンスミステリーとしてはじまる。
失踪した男性の主治医の行方を患者であるマイケルが知っているのかどうか、
院長がマイケルから話を聞くという真相究明を軸に、話は進むのだが、
だんだんと、マイケルという人間そのものの謎解きへと物語は変質していく。
 
マイケルがするたわいもないゾウの話、彼が真相を話すのとひきかえに出す条件、
また、失踪した医師は性的なハラスメントを受けたという告白。
どこまでが冗談で、どこから本当なのか分からない話の中に、だんだんとマイケルの真実が、浮かび上がってくる。
 
有名なオペラ歌手だった母親の一夜のアバンチュールの結果生まれた
望まれぬ子だったこと。父親とは一回しか会ったことがなく、
それもゾウのハンティングにつきあわされるという、最悪の経験だったこと。
涙を流しながら死んでいくゾウを見て、おかしくなったこと。
母親からは、愛されたこともなく、ゾウの数え歌を歌ってもらったことが
唯一の暖かい思い出であること。彼女の自殺を救急車を呼ぶこともせず、見守ったこと。そのせいで、精神病院にいれられたこと。
失踪した医師のことを愛していること、それが、いままでではじめての愛であること。そして、今の状態を変えたいと思っていること。
 
いままでの、無意味だった話や、行動がつながってくると同時に
その裏にあるマイケルの絶望が、見えてくる。
 
やがて、失踪した医師が実は、家族の急病のために
帰省したただけということが分かるのが、
マイケルの出した条件や、このやりとりが全てマイケルが自殺をするための
トリックであることが明らかになる。そして、その企ては成功し、
必死の救命のかいなく、マイケルは死んでしまう。
 
数日後、マイケルの主治医は、院長の問いかけに対し
マイケルのことを愛していたと淡々と告白する。
そして、院長は、病院を辞め、自分の本当に生きたい人生を生きることにした、
らしいところで映画は終わる。
 
この映画は、まなざしがあたたかい。
結末は悲しいけれど、そこには絶望ではなく、救いと愛があふれているように思う。