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アノマリサ

2015年 アメリカ

監督:チャーリー・カウフマン

※ネタバレ有り
 
なんだか、恐ろしい映画である。
 
主人公は、カスタマーサービスのエキスパートで、本も書いているマイケル・ストーン。しかし彼はひとつの秘密を抱えている。
まわりの人間が、全て同じ顔に見え同じ声に聞こえるのだ。
それは、妻も自分のこどもも同じだ。
そんな彼は、講演のために訪れたシンシナティのホテルで、同じでない顔と声をもった女性、リサを見つける。リサは、マイケルのファンで彼の講演を聴きにホテルに泊まっていたのだ。ふたりは意気投合し、そして一夜をともにする。
翌朝、マイケルは今の妻とは離婚するから、結婚しようという。

とまどいながらも、それを受け入れるリサ。
しかし、食事の席でリサが、食べ物を口にいれたまましゃべることが気になりだすマイケル。そして、それとともに、リサも同じ顔、同じ声に変貌してしまうのだ。

 まあ、いってみれば、些細なことから百年の恋もいっぺんで醒める、ということなのだが、一度は、手に入れかけた幸せを、マイケルは結局失うことになる。
なんとも救いのない話で、この後のマイケルの味気ない人生は考えるだけで、薄ら寒くなってくる。これを、自業自得といってしまうのは簡単だが、そうとも言い切れない気がするし、これが、人間というものなんだと醒めて考えることも難しい。
 
このアニメーションにリアリティを与えているのは、
そのストーリーもさることながら、おそるべき緻密さだ。
たとえば、ホテルのチェックインのシーン。
部屋にはいったマイケルは、まずトイレにはいるのだが、
トイレのドアを開けたまま、用を足すのだ。
たしかに、ホテルで一人の時にドアを開けたままというのは、
ありそうな気はするのだが、そういう部分も描き出してしまう、というところが
人間の心の裏側までをも見透かされているようで恐ろしい。
この後も、時間の省略が全くないシーンは続き、
まるで、その場にいて、覗き見しているような気にさえなってくる。
 
そういう描写は全編におよび、マイケルが、ホテルの呼び出す昔別れた彼女との会話もしかり、おどろくほど、リアルで生々しいのだ。
そして、圧巻は、リサとのセックス。
部屋にはいってからのふたりの会話、そしてベッドに横になり、セックスをする。
その流れが自然で、とても人形アニメとは思えない精密さ。
なおかつ、一切の省略やごまかしのない全てが露わにされるような映像。
実写でも、こんなシーンは見たことがない。
 
人形アニメにした理由というのは
おそらく、周りの人間が全て同じ顔に見えるという設定上の理由が大きいと思われるが、それだけでないなにか。実写では描けないなにかが、アニメーションゆえに描けているように思う。
 
しかし、この映画は、いったいなんなのだろう。
人間を、どこまで、無遠慮にリアルに描けるかという挑戦なのだろうか。
 
トラウマのように、心に残ります。