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暗殺の森

1970年 イタリア/フランス/西ドイツ
 
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミク・サンダ他
 
※ネタバレ有り
 
名匠ベルトリッチの1970年作品。
 
類い希なる映像美の中で描かれる
優柔不断な男のみじめさ、というのがこの映画の構図だろうか。
 
話は、第二次大戦中、ファシストに加担した主人公クレリチが
自分の出世のために、かつての恩師や惚れた女性を見殺しにするという話。
 
暗殺シーンで助けを求める女性に顔を横に向けたまま、
なにもしないクレリチを見て、護衛役の男がいう
「なにが嫌いだといって、卑怯なやつが一番許せない」と。
しかし、クレリチは、それでも堅い表情のままみじろぎひとつしない。
アイヒマン裁判を論じたハンナ・アーレントが、「凡庸な悪」というような言い方をしているが、この主人公も、優柔不断でなにもせず、まわりに流されることで悪に加担するという、まさに凡庸な悪を体現している。
 
そして、その凡庸な悪を際立たせているのが、登場する女性の美しさと、類い希なる映像美だ。
 
光と影のコントラストを強調した映像や、
ローンアングルでの大量の枯れ葉がつぎからつぎと舞い散るシーンや
厨房裏でのいつまでも揺れ続ける電灯のもとでの会話シーンなどの作為が誇張されたシーン、また、広大な精神病院や、ファシストの本部、
暗殺シーンでの白樺の森など、ロケーションのすばらしさ
また、有名なダンスシーン等々、そのすばらしさは数え上げれば切りが無い。
 
最後、ファシズムが崩壊し、民衆がファシストを糾弾しながら行進する中、
ひとり取り残される主人公の惨めさは、
その光と影のコントラストのある映像のなかで際立ってくる。
 
暗殺の森」というのは邦題で、原題は「順応者」とか「同調者」というような意味合いらしい。日本的にいうなら「日和見主義者」というところか。
本作の場合は、邦題の方がはるかにいい。