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ダゲレオタイプの女

2016年 フランス/ベルギー/日本
 
監督;黒沢清
出演:ダハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー他
 
※ネタバレ有り
 
黒沢監督の新作は、オールフランス人俳優で
フランス人スタッフ、フランスロケと
完全にフランス映画なのだが、
その中身はかなり日本映画的に思える。
 
いってみれば、日本の幽霊譚を
フランス人が少々ぎこちなく作りました、という感じ。
まあ、ぎこちなく、ではあるのだが
ぎこちなく落ち着きの悪い部分と
とても雰囲気のある素敵な部分とが混在しているという言い方が正しいか。
 
ストーリーは、幽霊とのラブストーリーで
牡丹灯籠を思い出したが、そこまでおどろおどろしくはない。
 
いろいろな批評を見ると、テーマがぼけているとか、
うすぼんやりしているというような評が散見されるが
その感想もわからなくはない。
確かに、なんで等身大の銀板写真なのか、とか
その写真に妻や娘を筋弛緩剤を使ってまで、永遠の美を定着させる、
ということの業が描き尽くされたかといえばそうでもないし、
マリーとジャンのラブストーリーも、そこまでの絶望はないようにも思う。
 
なにもかもが曖昧で、はかない。
しかし、そういう映画なのだと思う。
 
銀板写真にこだわる芸術家気質の写真家ステファン、
彼はかつて妻をモデルに写真を撮っていたのだが、
妻の死後は娘のマリーをモデルに撮影を続けている。
この銀板写真、ピンホールカメラに毛の生えたようなもので、
とにかく、露光時間が長い。早くて数十分、長くて2時間ほどもかかるのだ。
だから、モデル撮影は大変だ、その間動くこともできず
専用の拘禁具で固定されるという、かなりの苦行。
そのことでマリーは、精神的にも物理的にも父親に縛り付けられている。
そこに登場するのが、新しく助手として雇われたジャン。
ジャンは、だんだんとマリーに好意を持ち、彼女を救い出そうとする。
 
しかし、それはかなわず、マリーは死んでしまう。
そして幽霊としてジャンの目の前に現れる。
だが、ジャンは、マリーが生きていると信じ、彼女とつかの間の幸せな生活を送る。
死んでからも、マリーは自分を想うジャンの愛に応えようとする。
しかし、マリーがなにを望んでいるのかは、よく分からない。
ただ、ジャンといることだけで幸せだといい、全てが受動的だ。
その受動的で何を考えているのか、よく分からないところが実に幽霊らしいと思う。
存在しているのかどうかも、コミュニケーションがとれるのかどうかも、
よく分からない異質な存在、ただ、愛だけがある。
 
だから、束縛からの解放というようなテーマは、かなり二の次で、
マリーの愛だけが、この映画の真実なのではないか。
誰が誰を殺したのかも、誰が生きているのかも曖昧で存在しているかどうかも
よく分からない中で、ただマリーの曖昧な愛だけが存在している。
 
ジャンは、たとえ破滅してもこれだけマリーから愛されたら幸せだったんじゃないか、
と考えると、なんだやっぱり牡丹灯籠だったんじゃないかと、附に落ちる。
 
とにかく、マリー役の女優さんが最高です。
彼女を見るだけでも一見の価値ありでしょう。