クリーピー ~偽りの隣人~

2016年 日本
監督:黒沢清
出演:西島秀俊竹内結子香川照之、他

クリーピー 偽りの隣人」という、

火曜サスペンスのようなやる気のないタイトルから、
サスペンス映画かなと思っていたのだが、
これが、まじホラーでした。しかも、かなり怖い。

なんといっても、香川照之につきますね。
西島秀俊竹内結子演じる高倉夫婦が転居してきた家の隣人、
西野として登場するのだが、まずその登場シーンがすごい。
 
二人で挨拶にいっても、いつも返事がない。
で、次の日の昼間、妻が一人で行くのだが、またも返事がない。
それで、しょうがなく、挨拶の品を門にかけて帰ろうとする。
すると、奥から、いきなり声がかかる。
「何ですか」
驚いた妻が「すいません。いないと思ったものですから。隣に越してきたので
そのご挨拶に・・・」
「いや、私は何ですかって訊いたんです」
「ああ、これですか、チョコレートです・・・」
「チョコレート?一粒千円もするようなものがあるらしいですね」
「いえ、そうじゃありませんけど」
「私、チョコレート嫌いじゃないですよ」・・・・・。

たしか、こんなやりとりの登場シーンなのだが、まず歩き方が、妙だ。
ひょこひょこと、ぎこちなく妙なリズムで歩く。
しゃべり方も、威圧的なのだが、なれなれしい。
そして、絶妙に会話になっていない。ずれているのだ。
この辺の気持ち悪さ、ここだけで、すでに相当怖い。
この人は天才なんじゃないだろうか。
尋常ではないサイコパス感が満載だ。
このシーンだけでも、この映画を観る価値がある気がする。

そして妻は西野に厭な感じをいだくのだが、
なんとなく、家にはいりこまれ、徐々に支配され
マインドコントロールされていく。

どうやって、支配されていくのかについては、実はあまり説明はない。
この人の映画は、たとえば「CURE」にしても、「回路」にしても
なぜ、というのはあまり説明されない。
ただ、現象として人が殺人鬼になったり、異界から何者かがやってきたりする。
その現象の周辺や不穏な雰囲気は周到に描かれるので、
観てる側としては、特に違和感もなく、納得する。
因果関係に踏み込まないことが、リアリティを生み出している。

本作も、西野の断片や、過去の事件の断片などによって
ああ、西野はなんらかの人を操る力を持っているのだと納得させられる。
そういう、ある種人智の及ばない存在としての西野が秀逸だ。

舞台となっているのは、東京都稲城市
このロケーションも、また絶妙だ。
都市でもなく田舎でもなく典型的な郊外なのだが、
きれいな分譲地でもなく団地でもない。
全く手入れされていない空き地や、廃材置き場と並んで普通な住宅があるような、荒廃と普通の生活が混在している世界は、サイコパスが潜んでいるに相応しい。

ラストはあっけなく唐突に、終わる。少々雑な感じだ。
しかし、その雑でバランスの悪い感じが、本作にふさわしいのかもしれない。
ただ個人的には、別に決着させなくても良かったんじゃないかという思いもある。
もっと、ぼんやりと終わっても。
でも、解決させなかったら、後味悪すぎだっただろうか。