ハイ・ライズ

2015年 イギリス
監督:ベン・ウィートリー
出演:トム・ヒドルストン

※ネタバレ有り

どう評価していいのか、悩む作品。
舞台は、巨大な超高層マンション
といっても、40階くらいか。
原作が書かれたのが70年代だから、
その当時のイメージとしては、超高層だったのだろうと思う。

中には、学校もスーパーもプールもあり、
外に出なくても生活できる、ある意味閉じた世界だ。
その周りでも何棟ものマンションが建設中だ。

このマンションでは、上層階と下層階で階級があり、軋轢がある。
最上階に暮らす、マンションの設計者であるロイヤル様を頂点とする
上流階級と低層階に暮らす下層民との軋轢。
最上階のパーティには、下層民は招かれず、
下層階の住人は下層階だけで集まっている。

主人公は、そのマンションの25階に入居した医師のラング。
中間的な立場からの彼の目線で物語は進む。

あるとき、その軋轢は停電をきかっけに爆発する。
そして、いったんあふれ出した、不満はとどまることを知らずに
混乱は際限なくエスカレートしていく。
人間社会としての秩序は失われ、
男たちは殺し合い、レイプ、乱交とカオスな世界が現れる。
しかし、誰も出て行こうとはしない。

どう収拾するのか、訳の分からないまま、
最後は女たちによって新しい秩序が生まれたらしいところで話しは終わる。

原作は、JGバラード。終末を描いたシリーズなどで有名なSF作家。

しかし、この作品はどこまでもシニカルだ。
英国らしいと言うべきか。
だんだんと人間が文明を失い原始人のような混沌の世界へと落ちていく
ということでは、ゴールディングの「蠅の王」なども連想させる。

あるいは、パゾリーニのいくつかの作品とかも。

しかし、本作は、そこで絶望へとは落ちてはいかない。
一定の節度?を保っている。
犬を食べるシーンからはじまり、そこから回想で話は進むのだが、
文明や理性が失われた訳ではないのだ。

ただ、表面をはぎとられた、むき出しのなにかが
提示されているではあるが、
そこに何かが、手触りのある何かがあったのか、
それとも限りなく空虚なものでしかなかったのだろうか。

節度を意識させるのは、美術の効果も大きい。
雰囲気は60年代か70年代のモダニズムに統一され
アイボリーの色調とスタイリッシュな美しさ、
それと生々しい悪趣味との対比が、キューブリックを想起させる。

あまりのカオスな展開に、ちょっとついていけない部分もあるが、
なんか、残る映画ではあった。