ネオン・デーモン

2016年 アメリカ
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:エル・ファニングアビー・リー

※ネタばれ有り

なんだか、悪い夢のような映画だ。
最初はモデル業界の闇を描く、サイコサスペンスかと思うのだが、
やがて、スプラッターへと変貌していく。

登場人物は、極端に少なく、
重要な人物は、主人公のジェシーとメイクのルビー、
それとライバルのモデルのジジとサラ、という4人の女性。
あとは、カメラマンとかジェシーのボーイフレンドとか、

ただの背景の記号のようなもの。
彼女らの関係は、ジェシーに恋心を抱くルビーと、
モデルとして成功するジェシーに嫉妬するジジとサラ、
という実に単純化された図式。
そして、ジェシーに振られたルビーがかわいさ余ってにくさ百倍、
3人で結託して惨劇が起こる、というお話だ。
彼女らの背景や内面はあまり語られず、惨劇へとつながるような伏線もない。
ただ、唐突に物事が起こり、記号的に話しは進んでいく。

描かれているのは何だろう。
美とそれによって突き動かされる人間の闇か?
最初はうぶな田舎娘だったジェシーは、美の信奉者となり、
自分の美しさに酔いしれる。
そして、他の3人は、そんなジェシーへの嫉妬に常軌を逸していく。
ここには、まともな人間はおらず、全員が美という絶対価値のもとに狂っている。
しかし、その構図は、いささか類型的過ぎるようにも思う。
そんな嫉妬は、どこの世界にもある当たり前のこと。
これを闇だというなら、「ヘルタースケルター」で自分の身体を改造して破滅する
沢尻エリカの方が、はるかに闇が深いだろう。

描かれているのはえぐい話しなのだが、映像は非常にファッショナブルで、
どの場面をとっても1枚のスチールとして成立するような完成度の高さ。
それに音楽もかっこいい。ちょっとダビーで
エレクトロ風味のお洒落ジャズというところか。

惨劇後のラストで、ジジの撮影につきそうサラ。
カメラマンは、かつてジェシーを撮影した超一流。
そしてカメラマンは他のモデルを首にしてサラに撮影させて欲しいと依頼する。
ここでのサラは、かつてジェシーに仕事を取られた敗者ではなく
何か違うオーラを身にまとっている。
ジジとサラが海を背景に赤いライトを浴びて立つ画面は、
むちゃくちゃかっこいい。
ジジは結局、ジェシーのことが耐えられず自滅するのだが、
それを尻目にサラは、全てを貪欲に飲み込み、颯爽と歩いて行く。

きっと、この監督は人間の内面のどろどろとしたものを
描くことに興味がないのだろう。
ここに描かれたのは、闇ではなく“弱肉強食”の世界を生き抜くどう猛な美しさだ。

モデルとして成功しかけたジェシーと、
それに嫉妬する他のモデルたちという構図ではなく、
いたいけなジェシースケープゴートとし、
生き抜いていくどう猛な捕食者サラ、という構図。
そして、話しはおそるべきダークヒロインの誕生で幕を閉じる。
圧倒的な映像美は、そんなヒロインを賛美するようだ。

思えば、最初のシーンから、ジェシーが生け贄となることは暗示されている。

しかしまあ、観る人を選ぶ映画であることは確か。
「ドライブ」で有名になったレフン監督であるが、本作はかなり毛色が違う。
でも、より次回作が楽しみなった。