ブレア・ウィッチ・プロジェクト

1999年 アメリ
監督:ダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェス
出演:ヘザー・ドナヒューほか

超有名な映画だし、POV(主観映像)ホラーの元祖のような作品。
公開当時、面白い、すごい、という声をよく聞いた気もするが
所詮アイデア映画なんでしょ的な思いもあり、
結局観ないまま、今に至るのだが、ようやく観た。

で、感想としては、「え、結構すごいじゃない」
「もっと早く観ておけばよかった」である。

いや、実に怖い。今まで観たホラー映画の中で一二を争う怖さかもしれない。
WEBサイトで、ホラー映画のランキング的なものはよくあるのだが、
実は本作は、それほど評価が高くない。
映画の評価なぞ、ひとそれぞれではあるが、
この評価の低さはいかがなものであろうか。

POVとかフェイクドキュメンタリーというところに、目が行き過ぎて
その本質的な怖さにあまり意識が向いてないのではとさえ思わせる。

で、この怖さは、いったいなんなのだろうか。
たとえば、平山夢明の怪談話とかホラー小説の持っているような気持ちの悪さ。
悪意を持った得体の知れない何かが、ざわざわしている感じ。
特定の何者かではない、ユングの集合無意識ならぬ、集合悪意のようなもの。
そういうのが、にじみ出てくる感覚。

数人の人間が、何かを話ているが、何を話しているかは分からない。
ただ、その気配だけがある、というような。

ストーリーはシンプルだ。
魔女伝説のドキュメンタリーをつくるために三人の若者が森の中に入っていく。
それは、どちらかというと、そんなもんある訳ないじゃん、という前提の
遊びの延長線上のもの。首謀者の女の子は、それでも半分まじなのだが、
二人の男の子は、完全に遊びだ。
だから、準備もおざなりで、いい加減な気持ちで森をうろつき回り、
結果として道に迷ってしまう。

すぐ、戻れるだろうという甘い気持ちは、
一日二日と森をさまよううちに、いらだちと焦りに変わっていく。

そして険悪な空気は、精神の不安定さを生み出し
それとともに、まわりでは、まるで、彼らが弱るのをまっていたかのように
何かが常にざわざわするようになっていく。

決定的なものは、ここにはなにも映らない。
ただ、彼らの撮影するビデオに録音されたノイズなのか声なのか
よくわからないざわめきと、
険悪になっていく彼らの会話だけで映画は成り立っている。

しかし、それだけなのだが、
彼らがだんだんとまともな思考ができなくなり、
生きる気力を奪われていく過程が、克明に描かれていく。
そして、後半になるほど、殺伐とした暴力性のようなものが溢れ出し
怖さは増幅していく。

POVというよりも、ビデオのざらついた映像と音そのものが、
どこまで現実なのかビデオのノイズなのか判然とさせずに、
この異様な空気感を生み出したのだとは思う。
しかし、その後作られた多くのPOV、フェイクドキュメンタリー映画
どれひとつとして、ここまでの空気感を作り出していない。
本作は、決してPOVというアイデアの勝利だけではない、
集合悪意のようなものを描き出したというところで、
ホラーの本質に非常に近づいた、ホラー映画史に残る傑作と思う。