サンドラの週末

2014年 ベルギー/フランス/イタリア

※ネタバレ有り
 
「社員のボーナス」VS「一人の社員の復職」、というのが、この映画の構図。
病気療養から復職を目指す女性社員サンドラだが、社長は彼女を首にして、他の社員にボーナスを出すというプランを社員に持ちかける。
なんとか、その決定を先送りにし、社員による投票まで持ち込んだサンドラであるのだが、まあ、ちょっと考えれば分かるように、最初からサンドラには勝ち目のない戦いだ。いってみれば、復職という自分の幸せのために
ボーナスという他の社員の幸せを、捨ててほしいということになってしまう。
他の社員も、サンドラの復職は望んでいても
自分がもらうボーナスは、また別の話だろう、ということになる。
本来なら、経営者VS社員となるところが社員VS社員となってしまった、
その構図になってしまった時点で負けている。
 
しかし、サンドラは背に腹はかえられず、夫の強力な鼓舞を受けて、月朝の投票の前に、みんなを説得しようと土日をかけてみんなのもとを訪ねるのだ。
 
ボーナスの額は1000ユーロ、同僚社員は全部で16人、
そこで過半数をとれば勝ちというルールである。
ちなみに、1000ユーロというと今のレートだと約12万円くらい。
たいした金額ではない。しかし、それで家の改築の足しにしようとを考えている者もいれば、生活が苦しく、通常勤務以外にアルバイトをしている者もいる。
しかし、サンドラだって、解雇となれば、今のアパートには住めず
公共住宅で暮らさざるを得なくなる。
 
そんな、ギリギリな者どうし、ボーナスをあきらめて貰う説得は、
当然のことながら一筋縄ではいかない。
中には、サンドラに投票するといってくれる人はいるのだが、
罵倒されることもあれば、それがきっかけで家族の諍いが起こる場合もある。
そして、サンドラは本当に自分の行動が正しいのか分からなくなってくる。
夫はサンドラをはげまし、説得に同行し、正しいことをしているのだと鼓舞するのだが、その夫の言動すら、本当に自分の事を考えたものなのか、
それとも単に家計のことだけを考えているのか、も疑心暗鬼状態だ。
そして、多量の睡眠薬を飲むサンドラ。
 
しかし、そこに夫とけんかの末、サンドラを支持することを決心した
女性の同僚が現れ、サンドラは、もう一度戦うことを決意する。
 
サンドラが復職を願うことには義はあるが
その代償としてボーナスを諦めてもらう説得に義があるのかは、正直微妙だ。
少なくとも日本人にはなじまないことは確実だろう。
 
そして、月曜日、投票日だ。
結果は、賛成反対が同数に終わる。過半数をとれなかったサンドラの負けだ。
その結果を見た社長がある提案をする。
契約社員の契約が満了したら、サンドラを代わりに復職させようと。
しかし、契約社員の実情も知っているサンドラは
その話を蹴り、会社を後にする。
 
サンドラは、職を失ったが、しかし、だからといって敗北したわけではない。
少なくとも、困難な状況に負けずに、最後まで自分を貫き通すことができたことに満足する。だから、社長の話にのって、プライドを捨てることもしなかった。
最後に、サンドラが夫に言う、「私たち、頑張ったよね」と。
 
でも、考えてみれば、この結末以外には
ありえなかったのだろうと思う。
もし、サンドラが過半数をとっていたら、
それは、他の同僚の幸せを犠牲にして、自分の正義を貫いたということで
正直、共感できるかは怪しい。
 
サンドラに与えられたミッションの設定自体は、
ある種の寓話というかファンタジーであるとは思うが、
スリリングな展開と後味のいい終わり方は、好感が持てる。