あの日のように抱きしめて

2014年 ドイツ

監督:クリスティアン・ペツォールト
出演:ニーナ・ホス他

※ネタバレ有り

てっきり、この監督さん女性だと思ってました。
前作の「東ベルリンから来た女」もそうだったけど、
でてくる女性がとても誠実で、強くて、すごく女性的な感性な気がしたのだが。
どちらもニーナ・ホスという同じ女優さんで、
調べると前作がこの監督で5回目の主演とか出ていたので、もしかしたら、
この監督ニーナ・ホスの映画しか撮っていないのかもしれない。

特定の俳優さんとばかり仕事をする監督さんというのも結構いるので
それほど変わってはいないのかもしれないけれど、ここまでというのは珍しいかも。で、監督が男性となるとどういう関係なのだろうと考えてしまいます。
脚本も、常にニーナ・ホスさん想定の宛書きなんでしょうか。
まあでも、映画の出来から考えたら非常にリスペクトしているものと推測します。

さて、本作は第二次大戦終戦直後のドイツで
顔に大けがをおいながら、収容所から奇跡的に生還したユダヤ人歌手ネリーが主人公。手術によって顔が変わってしまった彼女が
元の夫とどういう関係を作るのかという物語。
妻は死んだものと信じている夫は、ネリーが妻だとは気づかず、
雰囲気が似ている彼女を相棒に妻の遺産をだまし取ろうと考える。

ネリーは、夫に対する愛情から、自分が妻だとは明かさずにその計画に乗る。
最初は、まるでつきあい始めのようで、浮き立つネリーなのだが、
だんだんと、夫の裏切りによって自分が収容所に送られたことが
分かってくるとともに、その愛情や浮き立つ心は醒めていく。
そして、自分の逮捕直前に夫から離婚手続きがされていたことを知り、
それは決定的となる。

このあたりの、二人の描き方がとっても素敵です。
最初、顔に傷を負い痛々しくも、
夫との久々の邂逅にうきうきするネリーは初々しく、可愛らしい。
いつ夫が本人だと気づくだろうと楽しみにする気持ちや
気づいてくれないもどかしさにすねてみたり。
それが、傷が癒えるとともに、痛々しさは消え自信と美貌が復活し、
逆に夫の方は、裏切りの事実が明らかになり
卑屈で弱い人間であることが見えてくる。

だんだんと立場は逆転し、
ラストでは、ネリーが劇的に決別を告げるのだが
その真実が明らかになるシーンは、
ちょっと類を見ないほど、鮮やかで痛快だ。
痛快なのだが、ちょっとほろ苦い。

この素晴らしいラストのためなら
顔が変わっても仕草とか背格好で妻だと気づくだろう
というようなつっこみは、どうでもいいんじゃないかと思わせる。