リップヴァンウィンクルの花嫁

2016年 日本
監督:岩井俊二
出演:黒木華綾野剛COCCO、りりぃ、他

※ネタバレ有り

黒木華が演じる主人公、皆川七海はずるい女だ。
自分の心を隠し、できるだけ本音は見せずに
事なかれで、何も責任をとることをせず、生きていこうとしている。

声が小さく、いかにも控えめで大人しい女性という佇まいなのだが、
別に控えめなのではなく、本音を隠しているだけだ。
困った時は、嘘もつくし、黙り込んで困った顔をする。
その場がやりすごせればOK 、という感じ。

そんな彼女はネットで、簡単に彼氏を手に入れる。
そして、あっという間に結婚ということになる。
七海的には、あれ、こんなに簡単でいいんだっけ?
でも、まあいっか、みたいな感じ。

しかし、天網恢々疎にして漏らさず、
神様は、そんないいかげんな彼女に試練を与える。

その役割を担うのは、トリックスターである自称何でも屋、安室だ。
綾野剛が演じている。

彼は、ある目的のため
別れさせ屋を使い、彼女を奸計にはめる。
結果、七海は、新婚早々浮気をしている嘘つき女というレッテルを貼られ
話し合いもできぬまま家を追い出され、一文無しになってしまう。

そして、安室は全てを失った彼女を助ける風を装い
七海を魔女の家にメイドとして送り込むのだ。

というところから、物語は本題である。

魔女は、COCCOが演じる、里中真白。AV女優だ。
(特に物語り上、魔女というわけではないが)
わがままで、エキセントリックで、危うくて、不安定で、
まあ、七海とは正反対。声もでかいし。
だけど、憎めない、不思議な魅力がある。

彼女と暮らす内に、七海は変わってくる。
自分の本音を隠そうとか、息を潜めて物事をやりすごそうとか
そういう鎧が剥がれ落ち、素の七海が現れてくる。

ふたりは、段々と本当の友情を感じるようになり、
そして、末期がんを患っている真白は七海を道連れに死ぬ、という計画を捨てる。

というのが、おおまかなあらすじ。
まあ、いってみれば、上っ面でしか人生を生きていなかった七海が
傷つき全てを失い、そこから本当の人生を手に入れるという、
再生と成長の物語であり、また、AV女優として身も心もボロボロになった真白の
魂の救済の物語でもあるのだろう。

ここにあるのは弱者の側に立とうとするやさしさみたいなもの。
しかし、何か岩井俊二の中だけで閉じた観念的な世界という印象もぬぐえない。

最後に、一人で死んだ真白のお骨を届けに七海と安室は母親を訪ねる。
そこで、娘を捨てたという母親の悲しみと向き合うことになるのだが
唯一そのシーンが、生々しく手触りがあり、心に響いた。