トム・アット・ザ・ファーム

2013年 カナダ・フランス

 
監督:グザヴィエ・ドラン
 
出演:グザヴィエ・ドラン、リズ・ロワ
 
※ネタバレ有り
 
 
正直言って、ドランの熱烈な信者でもなければ、良きファンですらなく
「マミー」もいまいちだったし、これはどうかな、というくらいの気持ちで見た本作。青春映画かと思いきや、サイコサスペンスなんでしょうか。
 
話は、モントリオールの広告代理店に勤めるゲイの男の子、トムが主人公。
亡くなっった恋人の葬儀に参列するために、田舎にある恋人の実家に行くのだが
そこにいたのは、息子がゲイだったことなど微塵も知らない母親と
イケメンだが、暴力的な兄貴フランシス。
トムは、母親の前ではただの友人のふりを続け、そのことで無意識の罪悪感を感じている。フランシスは、弟との関係を知っていて、高圧的な態度をとってくる。
そして、何日か滞在するうちに、フランシスの暴力と性的な魅力によって、トムは身も心も支配されていく。
車は壊され、逃げ出すこともできない。
というか、逃げ出したら、フランシスがかわいそうと思い始めるしまつ。
 
そこにやってくるのが、トムが呼んだ同僚のサラ。
母親には亡くなった息子の彼女という話になっている。
彼女の登場がきっかけとなり、フランシスの異常性に気づいたトムは
そこから、逃げ出すことに成功する。
 
しかし、この話、いろいろなことが、唐突な気がする。
トムがいきなり、「出ていったらフランシスがかわいそう」と言い出す場面、
え、いつの間に、そんな関係になったんだ、
なんで、そんな洗脳されたみたいになってるんだと、と見ているこっちがびっくり。そもそも、なんでサラを呼んだのかも、よく分からない。
 
そして、最後の逃げ出す場面、その理由は、いったいなんなんだと。
いなくなった母親は、フランシスが殺したってこと?
それとも、バーで、フランシスの過去の残虐な行いを聞いたから?
それとも、フランシスとサラがいい感じなってしまったから?
 
その辺の経過が描かれていないので、
いろいろなことが腑に落ちない、そのことによって、
その経緯を想像せざるを得ないので複雑になっている気がするけれど、
話自体は、超単純なんじゃないか、と思う。
要は、DV男に洗脳され支配されそうになったけど、
サラのおかげで、あやういところで助かった、と。
 
ただ、ゆいいつ、本当に怖かったのは母親の目だ。
トムに笑いかけ、サラに笑いかけ、息子の事をなんでもいいから話してと懇願する母親。そして、なにか裏があると感じはじめると、笑みは消え激高する。
その、すがるような、見極めようとするような、しかし、その底にあるのはやさしさではなく支配欲ではないか。
この母親の目のせいで、この映画は、息詰まる緊張感を保っている。
 
「マミー」も、母親との関係を描いた作品だったが、
ドランにとって、母親との関係は一筋縄では行かない複雑なものがあるのだろう。
 
ちなみに、トムを演じているのは、監督のドラン本人なのだが、
役者としてのドランはとってもいいです。「エレファント・ソング」もそうだったけど、その表情を見ているだけで飽きない魅力がある。