フィッツカラルド
1982年 西ドイツ・ペルー
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:クラウス・キンスキー、クラウディア・カルディナーレほか
※ネタバレ有り
大きな蒸気船で山越えする、というプロットから
難事業に挑む男の苦悩を描く重厚な映画を想像していたのだが、
そういう悲壮感漂う暗い話ではなかった。
南米ペルーにオペラハウスを建設しようと奔走する男、フィッツカラルドの話なのだが、このフィッツカラルド、一度鉄道事業で失敗していることからも分かるようにあまり商売の才覚はない。しかし、無類のオペラ好きの彼は、失敗に懲りずに
なんとオペラハウスを南米の奥地に建設しようという計画を企てる。
そして、その資金を作るために、目をつけたのが当時ブームだった、ゴム生産。
といっても、もう近辺の開発はすすんでいるので、
誰も手をつけなかった交通機関のない山奥のゴムを採取するべく、
船で山越えという、途方もないことを計画する。
しかしこれが、かなりずさんな思いつきレベルの計画だ。
まず、スタッフを集めるのだが、誰にもその計画を話していない。
そして、船が上流に行くにつれ、周りには首狩り族の太鼓の音が響き始め
「上流に向かうなんて聞いてないよ」という人夫たちは逃げはじめる。
誰もいなくなり、これまでか、というところで、
首狩り族の迷信がフィッツカラルドに味方し、彼らが手伝ってくれる事になる。
という落語のような展開で、なんとか計画を遂行する。
まあ、いってみれば「ほら吹き男爵の大冒険」みたいな話なのだ、これが。
このフィッツカラルドの人物造形が、この映画の大きなポイント。
夢想家で、大きなことを計画するのだが、ことごとく失敗、性格は弱いようでいて、無鉄砲な行動力だけはあり、いつの間にか周りがひっぱられている。どういうわけか憎めないキャラクターで女にはもてる、という、ある種の男の典型。
狂気にとりつかれた。というような紹介も目にするが、
狂気にとりつかれたのは、こんな映画を撮ろうと考えた監督の方で
フィッツカラルドは狂気というよりは、脳天気だろうと思う。
演じたのは、監督お気に入りの、クラウス・キンスキー。
いかにも苦悩が似合いそうな渋い風貌ながら脳天気という、
なんとも複雑な男を見事に演じている。
そして話は、山越えには成功したものの、ゴムの採取運搬という計画自体は失敗に終わる。それで、悲壮感にうちひしがれると思いきや、ぼろぼろの船を買い戻すという助け船が現れ、ラストでは、その船の上でオペラコンサートを開きご満悦、という、結局ハッピーエンドなんかい、という結末。
まあでも、ほらふき男爵なんだから、らしい終わり方といえば、らしい気もする。
ちなみに、森に囲まれた大河を進む蒸気船の上でオペラを流すシーンとか、
ハイライトである山越えとか、映像的な見所はいっぱい。
観ておいて損のない映画でしょう。
悪魔のいけにえ
暗殺の森
サンドラの週末
2014年 ベルギー/フランス/イタリア
インヒアレント・ヴァイス
2014年 アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス他
※ネタバレあり
熱っぽくて、幸せな時代…だったんだろうか、70年代の西海岸は。
残念ながら、リアルタイムでは知らないが、
この映画には、その時代の空気感が充満している気がする。
(知らないので、あくまで気がするだけですが)
話は、70年代のロサンジェルスを舞台とした、
レイモンドチャンドラー風のハードボイルド・ミステリー。
ヒッピーの私立探偵のドクの前に現れた、かつての恋人シャスタ。
彼女は、不動産界の大物ミッキー・ウルフマンの情婦となっていて、
そのウルフマンを陥れる計画が進行しているので、助けて欲しい、という。
その翌日、ウルフマンは失踪し、同時にシャスタも失踪する。
その裏には「黄金の牙」という謎の組織の影が。
というところで、いかにもなミステリーは展開する。
登場するのは、なにかトラウマを抱えた市警の警部、組織のスパイとして働くサックス吹き、その妻の総入れ歯のジャンキー、いかがわしい店とそこではたらく女の子たち、ドクの相棒の船舶の保険の専門家、ドクのセフレの女性検事、
謎の歯科医師のエロ親父、そして、ジャンキーの女の子たち。
終始、ラリってる雰囲気の中、まともな人間は登場せず、話は、なかなか進まずに
登場人物は増え続け、話は迷走を続ける。
主人公のドクからして、ラリってばかりだし、
そもそも、その謎解きストーリーにどれほどの意味があるのか不明だ。
それでも、なんとなく謎解きは進行し、
失踪した元カノは、いきなりドクのもとに戻ってくるし、
最後には、黒幕と思われる人物とドクは対峙し、小さな解決を得る。
しかし、それで、物語的なカタルシスを得るわけでもなく
かといって闇の深さに絶望するわけでもない。
宙ぶらりんな状態におかれた気持ちは、宙ぶらりんなままで、
気持ちの落としどころを見つけるのが実にやっかいな映画なのだ。
それでも、この映画は面白い。
なにか豊かなものと出会ったという、感触を残す。
迷路のような、という感想が、一番この映画に相応しいだろうか。
そんな迷路をさまよう快感に溢れている。
出口がどこにあろうが、どうでもいいし、そもそも出口などないのかもしれない。
という本作、個人的には「3大ラリってる映画」にいれてあげてもいいように思う。ちなみに、残りの2本は、「スキャナー・ダークリー」と「バッド・ルーテナント」です。(どちらも名作)
トム・アット・ザ・ファーム
2013年 カナダ・フランス
アノマリサ
とまどいながらも、それを受け入れるリサ。
しかし、食事の席でリサが、食べ物を口にいれたまましゃべることが気になりだすマイケル。そして、それとともに、リサも同じ顔、同じ声に変貌してしまうのだ。