シグナル

2014年 アメリカ

監督:ウィリアム・ユーバンク

出演:ブレントン・スウェイツ

 

※ネタバレ有り


映画サイトでの点数も低いし、全く期待しないで観た映画だが
それほど悪くはない。というか、割と好きかもしれない。

ジャンルとしては、SFスリラーということで、
まあ、映画に何を求めるかだけど、あっと驚く意外性のあるラストや
きっちりと伏線が回収できてる合理性を求める人にとっては
たしかに、評価は低いかもとは、思いました。
でも、この監督はきっと、合理性とかストーリーとか重視してないよね。
そういうところで勝負するのではない映画を作りたかったんじゃないか。

ストーリーは、大学生の男女3人の旅行ではじまる。
ニックとヘイリーは恋人同士で、そしてジョナはニックの親友。
ニックは病気となり脚に障害を抱える、そのため、ヘイリーの重荷になりたくなくて、この旅行で別れ話をしようと考えている。まだニックのことが好きなヘイリーはそのことに気づきながら、どうすることもできず、やるせない想いを抱えたままの旅行だ。

ニックとジョナはPCに詳しく、旅行の途中で、大学のPCや自分のPCがハックされた犯人が近くにいることがわかり、その犯人を突き止めようと寄り道をする。
そして、その居場所らしきところにある廃屋にはいるところから、映画はSFスリラーに急展開する。

得体の知れない何者かによって拉致された3人。ニックは目覚めると車いすに座らされ謎の研究施設に監禁されている。現れるのは、防護服に身を包んだ研究者デイモン(なんと、マトリックスのモーフィアスだ)。ここはどこだ、他の2人は、というニックの質問には答えず「君は、エイリアンとの接触で感染した。」だから、我々に協力しろという。
どこかで見たようなシチュエーション、どこかで見たようなストーリー。
そして思わせぶりで不安をあおる断片がてんこ盛りで出てくる。ニックの腕にプリントされた謎のID、「この時代にまだボールペンがあるとは」という研究者、なにか黄色い汚物で汚れた部屋を洗浄する研究員たち、収容者が脱走したという警報、意味不明の実験、実験室にいる牛等々。ここがどこなのか、自分は何をされたのか、何も分からないニック。部屋を移動する途中で、昏睡状態のヘイリーを見つけるが、どうすることも出来ない。そして、自分の脚がサイボーグ化されていることを知る。

見ているこちらとしては、この時点で、数パターンのオチを考えてしまう。
宇宙人による誘拐、政府の陰謀、軍の研究施設での秘密実験、パラレルワールド、あるいは全てが妄想、ニックたちが被害者なのかそれとも逆なのか等々。ありがちな設定なだけに何でも考えられそうな状況。そして、本当の伏線なのか、ミスリードするための伏線なのかもわからないほど出てくる断片。ストーリーではなく、断片の集合でなりっているとすらいえる。

そして、謎は解明されないまま、ニックはヘイリーと研究施設を逃げ出すことに成功する。しかし、出会う人々もどこかがおかしい。やたら空を気にしたり、おばさんが「内から外よ」と意味不明はことをいったり。
車を奪い、ぐるぐる迷った末になにやら廃墟になった観光案内所のような所にたどり着く。どうも、この世界には、抜け出す道がないようだ。そこにいたのが、一足早く逃げ出したジョナ。そして、ジョナも腕をサイボーグ化されていた。

変わり果てたからだをかかえ、3人はまた旅をはじめる。だが、検問をきりぬけることができず、ジョナは自分を犠牲にして2人を逃がす。

二人は出口を探すものの、結局、研究所の人間に捕まってしまう。そしてヘイリーは連れ去られ、ニックはこの世界の果てへとたどり着く。

本作は、まじめにいうなら、SFという世界観を借りた青春ラブストーリー、
あるいは友情ストーリーということになるのだろうか。
不条理な世界の中で、理由も分からず翻弄されながら、悩み傷つき、迷う主人公たち。最後には、愛情や友情を信じつつも別れ別れになってしまう。
ところどころに挿入される回想シーン。その中でニックとヘイリーは遊園地で戯れ
ニックとジョナは森の中をランニングする。
失われた日々、そしてこれから失われようとする希望。そのぽっかりと空いたような喪失感。

映像はスタイリッシュで、音楽も美しい。
演出も中だるみするところもなく、最後まで一気呵成に観てしまうスピード感。映画的なクオリティはかなり高いと思う。
この監督、デビッド・リンチの再来とか、言われているらしい。
リンチとは、ちょっと指向が違うし、もっとスタイリッシュであるが、
説明する気のないところや映像へのこだわりというところでは、通じるものがあるかもしれない。

ラストでこの世界の秘密が明らかになるのだが、それで、全ての謎がクリアになるわけではない。まあ、この映画そういう映画ではないので、それで、評価が下がるということはない。

この先、「ガタカ」とか「ドニーダーコ」のような、SF青春カルトムービーとなっても不思議ではない気がする。