ケンとカズ

2016年 日本
監督・脚本・プロデュース:小路紘史
出演:カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節、高野春樹、他

※ネタバレ有り

覚醒剤の密売をやっている、ヤクザ組織の末端のチンピラ二人の物語。
二人とも、もう、若いといえるほどの歳ではなく、
ひとりは子供ができて、この先どうするんだとかみさんに問われている最中で、
もう一人は痴呆症の母親を抱え、施設に入れなければと悩む日々。
もう、何も考えずに無茶ができる時期は過ぎている。
若い舎弟がひとりいるのだが、大して儲かっているわけでもなく
先行きも見えずに、ただ毎日が過ぎていくようなそんな状況。

そこで、そんなうだつのあがらない状況を変えるために
上の目を盗んで、別のルートで自分たちだけで商売を始めようとする。
しかし、それが組織の上に感づかれ、二人は破滅への道を転げ落ちていく。

と、こう書くと、よくある青春チンピラ映画、
ということになるのかもしれないが
ここには、リアルがある気がする。
無鉄砲なだけではいられない、チンピラの生活感とか、
閉塞状況のなかでも、安定と成功を求めようとする焦りとあがきとか。

この閉塞状況は、覚醒剤の密売屋という設定であるにしても
どこにでも転がっている閉塞感であり、
今の日本で生活している限り、誰にでもあるもの。

二人は、そこで行動を起こすわけだが、
その行動は、しかし、ひとつの光明ではあるのだろうと思う。

このリアルは、生々しく緊張感のあるテンポや演出にもあるのだが、
もうひとつ重要なことは、知っている役者が一人もいないこと。

それでいて、まあよくもこんなに、ピッタリの役者が
見つけられたと驚くばかりのはまり具合。
有名俳優が出ずに、キャスティングがさえているだけで
こんなにも素晴らしい映画になるって事がびっくりだ。

昨今の日本映画の、主役も脇役もみんな同じような俳優がでる状況、
特に若手は、演技の上手くもないアイドル系にしめらている状況に
うんざりしていただけに、脇役も含め知っている役者のでない映画が新鮮だった。
そして、キャスティングが、どれだけ、重要かということ、
それだけで、映画のリアリティが段違いに変わってくるということに
いまさらながらに気づかされた感じだ。

そういう意味では、今の日本映画の閉塞状況を変えうる、
一本といえるかもしれない。