あゝ、荒野

2017年 日本
監督:岸善幸
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、他
 
※ネタバレ有り

菅田将暉の演技につきるのでは、と思う。
ポロシャツが似合う育ちの良さげな雰囲気を感じさせながら、
感情を爆発させるときのきれっぷり、そのギャップがいい。
目が生々しくて、凶暴だ。

タイトルは「あゝ、荒野」という。
荒野とは、先行きの見えないゴミためのような世界のことだろうし
その荒野を生きる孤独とか、その孤独に耐えながら、それでも耐えきれずに
他人と繋がることを夢見る、そんな想いのようなもの。

親から捨てられた、新次(菅田将暉)が
ボクシングに居場所を見つけ、というのは、
あしたのジョー」が輝いていた70年代なら、ともかく
いまどきないだろう、とも思うのだが、
2021年という設定でも不思議と違和感がない。

それどころか、意外とはまっている。
ハングリーなんて言葉は、もう死語かも知れないと思うが
四角いリングで、言葉もなく殴り合うという
その原初的な衝動の発露が意外といいのだ。
今日的なリアリティを失っていない。

そのエンジンとなるのが、
新次を演じる菅田将暉の目つき。
暴力的で挑戦的で、自分の衝動を疑わない、その目つきだ。
そして、その凶暴さは乾いてなく、ウェットだ。
絶望ではなく、何かを信じている目だ。
その熱量に勇気づけられて、観ている我々も
ボクシングの世界へと身をゆだねることができる。

物語は、ライバルとの戦いを経て、
仲間との戦いへと進んでゆく。
荒野でつながることは、なによりもボクシングで
殴り合うことなのだから、それは、必然だ。
そして、完全なつながりを確認して物語は終わる。

それこそ、「あしたのジョー」や「デビルマン」のような
パーフェクトな終わり方だと思う。

前後半合わせて5時間越えという長い映画だが、
ほとんどだれるところがない。

あと、彼女役の木下あかりも、よかった。
今後注目です。